奈良地方裁判所 平成2年(行ウ)4号 判決
原告
早川忠(X)
右訴訟代理人弁護士
峯田勝次
被告
香芝市旭ケ丘土地区画整理組合 (Y)
右代表者理事長
右訴訟代理人弁護士
新宅隆志
同
筒井豊
事実及び理由
第三 争点に関する判断
一 換地計画を定めることの要否について
法九八条一項前段の前半所定の土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のために必要がある場合には、換地予定地的仮換地の指定処分をするときでも、換地設計に基づくことを要しないものと解するのが相当であるから、本件各仮換地指定において、換地計画が定められていなくても、これを違法ということはできない。
二 使用収益の開始日を特定しない仮換地指定の適法性について
法が施行者において仮換地の効力発生日とは別に使用収益開始日を定めることができるものとし、従前地の権利者が右使用開始日までの間当該仮換地の使用収益をすることができない場合があることを認めていることからすれば、使用収益開始日が別に定められたため仮換地を使用収益することができないからといって、当該仮換地指定が違法ということはできない。このことは、使用収益の開始の時期について目途が立たないために使用収益開始日を予め確定することなく、仮換地の使用収益開始日を後に通知することとしたとしても何ら異ならない。したがって、使用収益の開始日を特定していないとしても、これを違法ということはできない。
三 照応の原則違反について
1 法は、「仮換地をする場合、仮換地及び従前地の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」(法九八条二項、八九条一項)としており、「照応する」とは、従前地と仮換地とが、通常人がみて、大体同一条件にあると認められるものでなければならないこと(いわゆる縦の照応)、同一事業の施行地区内における他の権利者との公平が保たれていること(いわゆる横の照応)をいうと解される。
2 本件のように、土地を、典型的な農地、山林区域で住居家屋が点在する程度の利用状況から低層住宅を主体とした新住宅市街地へと変貌させるいわゆる新開発型土地区画整理の場合においては、仮換地指定の基準として、権利者が従前地を使用していない限り、土地の位置、形状、面積等に比して仮換地及び従前地の価格が重要な要素となる。もっとも、土地区画整理後の価格は事柄の性質上、事後的な予測にならざるを得ず、また、法の規定の趣旨からして経済的な価値が照応すれば面積形状等を無視するということはできない。権利者が従前地を使用収益している場合には、権利者が仮換地に同意した場合を除き、その地積、形状は従前の土地利用形態を維持する上で極めて重大な問題であるから、宅地の価格のみを仮換地指定の基準とすることはできず、地積、利用状況等も十分に考慮すべきである。
そして、本件換地規定においても、土地利用の継続のために特に必要があると認められる画地や建物のある宅地については、その利用状況等を勘案して整理後の画地の地積を定めるものとしている(第六章第九の二、第七章第一三。永続的な土地所有者にとって重要なことは、土地の交換価格ではなく、その利用価値であると考えられるから、本件のように土地を使用収益している権利者に対する仮換地において減歩率の割合が高い場合、区画整理による仮換地に特別の便益が認められることが必要である。建設省作成の「土地区画整理設計標準」(乙一〇、昭和八年七月二〇日、発都第一五号各地方長官・各都市計画地方委員会長あて内務次官通達、昭和四一年三月三一日建設省発書第一二七号改正)第二の一イが「道路、水路、小公園及小学校ノ敷地ニ依ル民有地ノ減歩率ハ二五『パーセント』以内ヲ以テ目途トスルコト従テ民有地ノ減歩率ヲ過大ナラシムル事情アルモノニ付テハ特ニ設計ノ細部ニ付考慮スルコト」としているのも、右の趣旨を含むと解される。
なお、本件のようないわゆる新開発型土地区画整理においては、整理の前後で著しく土地の環境、形状等が変貌するから、従前地の位置は重要な要素とはならないというべきである。
四 以上の観点から本件各仮換地指定について検討する。
1 第一仮換地指定について
(一) 減歩率について
<1> 第一仮換地指定の減歩率が二六・〇二パーセントであることは当事者間に争いがない、
<2> 右減歩率は、建設省作成の「土地区画整理設計基準」の定める二五パーセントという目途をわずかに上回るにすぎない。
(二) 形状について
<1> 第一土地について
第一土地は別紙図面1のとおり、幅員約四メートルの道路に斜辺が接する三角形の土地で、斜辺が約三三メートル、他の二辺が約二九メートルと約一六メートルである〔証拠略〕。右土地は、道路に面した部分は平坦であるが、南側がほぼ垂直な法面となっている〔証拠略〕。
<2> 第四土地について
〔証拠略〕によれば、第四土地は別紙図面1、2のとおり、東西の幅が約二〇メートル、南北の幅が約八・五メートルの長方形の整形地であり、周囲が法面で囲まれるように計画されていることが認められる。
<3> 従前地は道路に接する側は平坦であったものが、仮換地では道路との間に法面ができ、道路に面した間口も約三三メートルから約八・五メートルと四分の一になる。しかし、右<1>及び<2>のとおり、従前地も南側が法面であり、第三仮換地指定により、三角形の不整形地が長方形の整形地となるものである。
(三) 利用状況及び環境について
<1> 〔証拠略〕によれば、本件各仮換地指定当時、原告は、第一土地において、昭和五四年一一月に建築確認を受けて鉄骨造二階建店舗兼居宅を建築し、一階を板金塗装業のための倉庫、作業所、二階を住居兼事務所として娘婿に使用させていたこと、右店舗の一階部分のシャッターの幅は北側約六・三メートル、西側五・六メートルであることが認められる。そして、その周囲には人家がほとんどなく、雑木林等が主となっている(〔証拠略〕)。
<2> 争いのない事実等二1(三)及び3(二)のとおり、本件各仮換地の周辺は低層住宅地として計画されており、本件各仮換地は、別紙図面のとおり本件土地区画整理事業の中心道路である高・小森線(幅員一六メートル)と畑・分川線(幅員一六メートル)の二本の都市計画道路の交差点の北西に位置し(〔証拠略〕)、右交差点の南西側には近隣センター(約一万八一六八平方メートル)が建設される予定である(〔証拠略〕)。
したがって、本件各仮換地の周囲の環境は、雑木林等の人家のほとんどない状況から住宅地に一変することとなる。
<3> 右のとおり、第四土地で板金塗装業を営むのは、間口が四分の一ほどになること、道路との進入路が法面となること、周囲が住宅地となること等から、従前地に比較すれば困難になることが認められる。しかし、第一土地における板金塗装業の営業状況(〔証拠略〕)に照らせば、第四土地の間口からして、これを店舗の敷地として使用できなくなるわけではなく、原告は第一土地上の建物につき、昭和五四年一一月に建築確認を受けている(〔証拠略〕)から、第四土地について、法律上も同種の建築物を建築して板金塗装業の営業を継続することは可能であると認められる。そして土地区画整理事業により土地価格がかなり上昇すると考えられることのほか、不整形地が整形地となり、居宅の敷地としての使用を継続する上で原告に相当の利便の増進が認められる。
(四) 結論
以上の事実関係によれば、第一仮換地指定については照応の原則に適合するというべきである。
2 第二仮換地指定について
(一) 減歩率について
<1> 第二仮換地指定の減歩率が約四六・七六パーセントとなることは当事者間に争いがない。
<2> 右<1>の事実からすると、第二仮換地指定は、かなりの負担を原告に強いるものである。
(二) 形状(分割仮換地)について
<1> 従前地について
第二土地は別紙図面1のとおり、南側及び東側が幅員約四メートルの道路に接する不整形地で、第三土地と併せて一団の土地(西側と南側の境界線はほぼ直線)となっている。第二土地の東北の角付近は法面である(〔証拠略〕)。
<2> 第五土地ないし第七土地について
〔証拠略〕によれば、第五ないし第七土地は別紙図面1、2のとおり、三つの区画の土地で、各土地が法面で囲まれることが認められる。
〔証拠略〕によれば、第五土地は、東西の幅が約五七メートル、南北の幅が約三九メートルの長方形の整形地(ただし、東北と東南に角切りがある)であり、第六土地は、東西の幅が約二〇メートル、南北の幅が約四〇メートルの長方形の整形地であり、第七土地は、東西の幅約三三・四メートル、南北の幅が約二〇メートルの長方形の整形地である。
<3> 右のとおり、原告には整形地が仮換地されることになるとはいえ、第二土地は三つに分断されて土地と道路の間に法面ができること等からすれば、形状の点において、第二仮換地指定が従前地と照応するとはいえない。
(三) 利用状況及び環境について
<1> 争いのない事実等四のとおり、本件各仮換地指定当時、原告は、本件第二土地において、事務所一棟、倉庫一棟を建築し、ミキサー、ホッパー、ベルトコンベア、ロールクラッシャー、給油スタンド、水槽、貯蔵槽、無線局及び井戸を設置し、土木建設業並びに建材の販売業等を営んでいた。前認定のとおり、本件各仮換地の周囲の環境は、雑木林等の人家のほとんどない状況から住宅地に一変することとなり、また、第五土地を除き各仮換地は幅員一六メートルの道路に面することとなる。
<2> 右の認定事実によれば、原告が、第五ないし第七土地において、建材業を継続することは非常に困難であると認められる。
<3> 被告は、第五ないし第七土地において、原告が建材業を営むことは可能であるとし、それに沿った書証(〔証拠略〕)を提出し、証人吉永廣信も右主張に沿う供述をしている。しかし、第二仮換地指定の減歩率、第五ないし第七土地が法面で周囲を囲まれることになること、土地が三つの土地に分断されること、周囲が住宅地になること等からすると、右の被告の主張は採用できない。
<4> 被告は、第二仮換地指定により被告が従前の営業を廃止しなければならなくなるとしても、それは、本件施行区域が当初から全て第二種住居専用地域及び住居地域の用途指定を受けているため、建築基準法四八条等により、建材業を営む工場等を建築できないことによるのであり、原告が建材業を経営できたのも住宅地の開発が進展しなかったという偶発的な事情によるものであるから、この点を照応の原則の判断において考慮すべきでないと主張している。しかし、仮換地指定により仮換地に建築物を移転・新築をせざるを得ない場合には、建築基準法四八条各項にいう「公益上やむを得ない」場合に該当するというべきであるから、仮換地が行われても、施行者が地積、環境、土地の形状等を考慮すれば、営業を継続することは可能である。したがって、右の被告の主張は採用できない。
(四) 被告は、本件土地区画整理の施行地区が、都市計画上、市街化区域とされ、第二種住居専用地域及び住居地域の用途指定を受け、本件施行地区内に工業地域、準工業地域等の指定がされた土地が存在しないため、被告は住居地に仮換地せざるを得なかったと主張している。
本件のようないわゆる新開発型土地区画整理においては、土地区画整理後の土地の単価は、土地区画整理前のそれと比べ相当に高くなることが予想される。そして、原告のように従前地を現に使用し、収益を上げている者に対して仮換地を指定するに当たり、価格のみに重点を置くとするなら、その減歩率が当然に高くなるため、利用状況が照応しなくなるという結果を生じることとなる。しかし、争点に対する判断三2で既に述べたように、このような場合、法は、仮換地指定の基準として、宅地の経済的な価値のみの照応があれば足りるとしているものではなく、地積、利用状況も十分に考慮すべき旨を定めているのであり、被告が本件仮換地の基準とした本件換地規定においても、土地利用の継続のため特に必要があると認められる宅地について配慮すべきことが定められている(しかも、被告は、争いのない事実等二3(二)のとおり農業を営む者に対しては本件施行区域内に集合農地地区を設けている(〔証拠略〕)のである)。
また、これも既に述べたところであるが、本件のようないわゆる新開発型土地区画整理においては、土地の環境、形状等が変貌するから、従前地の位置を重要な要素とすることは相当でなく、してみると、本件のような場合には、住宅地の中心地ではなく、施行地区の周辺に仮換地をすれば、その地積、利用状況ないし環境につき従前地との照応がより満たされるはずである。
しかるに、被告は、第二仮換地指定につき、従前地の利用状況等を十分に考慮して施行地区の周辺に仮換地指定する等の配慮をしていない。
(五) 被告は、本件各仮換地指定の全てを総合的に判断すべきであり、総合的にみると第二仮換地指定は照応の原則に適合すると主張している。しかし、被告の主張するとおり本件各仮換地指定を総合して判断したとしても、第二仮換地指定の減歩率が四六・七六パーセントで、原告に大きな負担を強いるものであり、それに比して必ずしも原告に特別の便益があるとは認めがたいから、被告の右主張は採用できない。
(六) 結論
以上のとおり、第二仮換地指定は、減歩率が高いにもかかわらず、原告に特別の利便をもたらすものではなく、従前地と仮換地の形状、地積、利用状況及び環境のいずれについても、照応の原則に反するというほかはない。
3 第三仮換地指定について
(一) 減歩率について
第三仮換地指定の減歩率が二八・〇二パーセントとなることは当事者間に争いがなく、建設省作成の「土地区画整理設計基準」の定める二五パーセントという目途を三パーセントほど上回るにすぎない。
(二) 形状について
<1> 従前地について
第三土地は、別紙図面1のとおり、第二土地と一団の土地をなしてその東南に位置し、南側、北側及び西側は、いずれもほぼ垂直な法面となっている(〔証拠略〕)。
<2> 第八土地について
〔証拠略〕によれば、第八土地は別紙図面1、2のとおり、東西の幅が約二七・六メートル(ただし、東南に角切りがある)、南北の幅が約二〇メートルの長方形の整形地の第六土地と一団の土地であり、その周囲が法面で囲まれていることが認められる。
<3> したがって、仮換地により整形地となること、第三土地及び第八土地とも法面で周囲を囲まれていること等、形状としてはほぼ照応するということができる。
(三) 利用状況及び環境について
<1> 争いのない事実等四のとおり、本件各仮換地指定当時、原告は、第三土地上に木造スレート葺平家建居宅(甲四五)を所有し、住居として使用している。そして、本件仮換地の周囲の環境は、雑木林等の人家のほとんどない状況から、近所に近隣センターが建設され、住宅地へと一変することとなるが、第三仮換地指定をしても、宅地としての利用状況には変化がない。
<2> 本件土地区画整理により地価がかなり上昇すると推測されること、前記のとおり近隣が住宅地として整備され、すぐ南側に近隣センターが建設されること等、原告には、第八土地を住宅地として利用する上で利便が増進すると認められる。
(四) 結論
右(一)ないし(三)の認定事実によれば、第三仮換地指定については、地積の点で減歩率が二八・〇二パーセントになるとはいえ、近所に近隣センターが建築され、付近が住宅地となり、地価が上昇することなどを考慮すると照応の原則に適合するというべきである。
なお、第三土地は、第二土地に隣接した一団の土地ではあるが、その周囲は法面となっており、土地利用形態が住宅地として独立しているとみることができるから、第二仮換地指定が取り消されたとしても、第三仮換地指定の効力がそのことにより影響を受けるものとはいえない。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 近田正晴)